グラグラと地面が揺れて、盛り上がった床を突き破るようにして現われた魔物。
毒々しい紅い花から黄色い花粉を吐き出す。玉葱型の球根本体から幾筋もの根が伸び、それぞれの意思があるかのように醜く蠢く。かなりグロテスクな光景に、知らずティルは二、三歩後退していた。
獲物を発見し、一斉にピタリと動きを止めた根は、次の瞬間ターゲットに向かって鞭のようにしなり迫ってくる。
「なんだ、これは!!!」
嫌悪をあらわにしたビクトールの大声に我に返って飛び退ろうとするも、根は伸縮自在でどこまでも追ってくる。
「坊っちゃん!!」
グレミオの声。
そして、死神の鎌は振り下ろされた。



「グレミオ!!」
目の前にある重い扉は開かない。この向こうにはグレミオがいるのに。どれくらい経っただろう。再び彼の姿を見る事はなかった。最期さえ見る事が叶わなかった。そこには何も残されてはいなかったから。
ビクトールが手渡してくれたグレミオの斧は、母の飾り棚のような存在の証にはならなかった。ティルは斧を大切にしまっただけで、それを見て彼を懐かしむような事はなかった。
なぜならば───
彼はこの右手の黒い魔物の中にいるのだから。
死神の鎌の形をした魔物が、右手の中で高らかに笑う。
それが彼の存在の証だった。



母はいらない、そう思った事はあったけど。
『坊っちゃん、気を付けて』そう言って見送ってくれる人もいなくなった。
 
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